1982年に制作された、サイバーパンクSFの金字塔『ブレードランナー』の続編、『ブレードランナー2049』。前作主演のハリソン・フォードは引き続きリック・デッカード役で出演、前作の監督リドリー・スコットが製作総指揮を務め、公開前の話題は事欠かない。たぶん僕の中で、今年一番楽しみにしていた映画かも。首を長~くして待ちわびた作品のレビューをどうぞ。

レプリカント越しに「人間らしさ」を描く(あらすじ)

2049年、一台のスピナーが荒廃したロサンゼルス郊外の上空を飛んでいた。

そのスピナーを運転するのは、LAPD(ロス市警)に所属する通称“K”(製造番号KD6-37の頭文字から呼ばれていると思われる)と呼ばれる「ブレードランナー」(旧式レプリカントを「解任(処刑)」するのが職務)。Kはロサンゼルス郊外の農場に潜んでいた反逆レプリカントのサッパー・モートンを「解任」する。その際に、木の根元に埋まっていた遺骨の入った箱を見つける。分析の結果、その遺骨はレプリカントのもので、死因は帝王切開の合併症であることがわかる。

レプリカントの妊娠という不可能な事実、Kの上司のジョシ警部補はその事実による社会的混乱を考え、Kに事件の証拠隠滅と、生まれた子供の始末を命ずる。

ウォレス・コーポレーション(タイレル社無きあと、レプリカントを製造する会社)を訪れたKは、「大停電」を経て僅かに残ったレプリカントのデータから、遺体は30年前、元ブレードランナー、リック・デッカードとの逃避行で姿を消した、ネクサス6型のレイチェルだった。レプリカントの生殖能力を完成させ、自社の事業拡張を図ろうとするウォレスは、秘書兼ボディガードのレプリカントのラヴに、Kを尾行してレイチェルの子供を見つけることを命令する。

先に解任したモートンの農場に戻ったKは、木の根に彫られた幼少期の記憶に一致する日付と木馬を見つけ、「思い出が現実なのでは?」と懐疑する。さらに調査を続けるKは、自分が記憶していた日付に一致する出生記録には、性別以外は同じDNAを持つ双子がその日に生まれ、既に女児は病死し男児だけが生きていると記載されていた。Kは記憶デザイナーのアナ・ステリン博士を探しだし、レプリカントに人間の本当の記憶を埋め込むことは違法であると知り、自分がレイチェルの息子かもしれないと思うようになる。

署に戻ったKは、レプリカントの行動心理テストで不適格とされ、ブレードランナーとしての停職処分を受ける。ジョシから身を隠すよう忠告されたKは、木馬を分析して、その痕跡から廃墟となったラスベガスにに辿り着く。ラスベガスに向かったKは、そこで隠遁していたデッカードを見つける。デッカードは、自らの痕跡を消すために出生記録を偽造し、そして妊娠したレイチェルをレプリカント解放運動(Kに解任されたモートンも所属していた)に委ねたとKに話す。

その頃、デッカードらを探していたラヴはLAPDのオフィスでジョシを殺害、Kの動向からその居場所を突き止めラスベガスに急行する。追ってきたラヴに対してKとデッガードは逃げるが、格闘の末、Kは叩きのめされ、デッカードはラヴに誘拐されてしまう。レプリカント解放運動家らによって救助されたKは、そこで生き残ったレイチェルの子が女児であることを知る。記憶デザイナーのアナ・ステリン博士こそがレイチェルの娘だったのだ。Kは自分の幼い頃の記憶は、彼女の記憶だと悟る。

ロサンゼルスに連行されたデッカードは、ウォレスにレイチェルの再生と引き換えに秘密を明かすよう持ちかけるが、デッカードは拒否し交渉は決裂する。ウォレスに命じられたラヴは、デッカードを護送する途中でKの急襲を受ける。激しい格闘の末に、Kはラヴを倒しデッカードの救出に成功する。

雪が降る中、Kはデッカードをステリンの研究所に連れて行き対面のお膳立てをする。ラヴとの闘いで深手を負っていたKは、デッカードを見送った後、薄れていく意識の中で、しかしその表情は安らかそのもので、舞い降りる雪を眺めていた。

『ブレードランナー2049』に至る経緯

本作品中において、気になる出来事やキーワードがある。

  • 「大停電」とは?いったい何が起きたのか?
  • 「ウォレス・コーポレーション」とは?レプリカントは「タイレル・コーポレドーション」が製造してたんじゃないの?
  • 「モートンの解任」本編の冒頭、ブレードランナーのKに、なぜいきなり解任されるのか?

まぁ、これらを理解していなくても作品は楽しめますが、理解していれば、より一層楽しむことが出来ます。そのため『ブレードランナー2049』には、三つの前日譚が用意されています。2019年のロサンゼルスを描いた前作の『ブレードランナー』から『ブレードランナー2049』に至る、30年の間に何が起きたのか?

三つの前日譚はこちらから→『ブレードランナー2049』を観る前に予習しておこう!

大停電はこうして起きた

デッカードとレイチェルが、行方をくらましてから三年の年月が経った西暦2022年。タイレル社は、ネクサス6型の発展形となる、寿命の長いレプリカントを製造する。それが、ネクサス8(ネクサス6が4年の寿命に対して、ネクサス8の寿命の詳細は言及されていませんが・・・)。時同じくして、世間では“人間至上主義(レプリカント排除)”が過激になり、レプリカント狩りが公然と起きるようになります。こういった背景から、「スキンジョブ(人間もどき)」(Kが住むマンションの住人に吐き掛けられる言葉)という差別用語も誕生しました。

そんな中、複数のレプリカントの不穏な計画が実行されます。誤射(実はレプリカントの仕業)された核弾頭ミサイルが、アメリカ西海岸上空で爆発。電磁パルスの影響により、都市に「大停電」が引き起こされます。そしてその混乱に乗じ彼らは、政府に保管されている電子データや動力・送電システムの破壊を実施します。この事件を機に、それ以前に製造されたレプリカントのデータはほぼ抹消され、レプリカントは人間の世界に紛れることになります。

タイレル・コーポレーションからウォレス・コーポレーションへ

「大停電」後、それに伴う食糧不足やレプリカントの反乱により、社会は混乱状態となる。やがてレプリカントの製造が法律で禁止され、その製造を一手に引き受けていたタイレル社は倒産を余儀なくされる。その後、天才科学者ニアンダー・ウォレスによって合成食料の技術が確立。食料問題は解決に向かう。そして彼が設立したウォレス社はタイレル社の資産を吸収する。公聴会においてウォレスは、自社が製造したレプリカントをプレゼンし、禁止法の廃案を求める。法律が廃止となった2036年から、寿命に制限がなく、雇い主に絶対服従の新型レプリカントの製造を始める。

Kというレプリカント

この『ブレードランナー2049』は、今までの常識を覆す生殖機能を持ったレプリカント、レイチェルの出産と、「レイチェルの子供は誰で何処にいるのか?」という謎を軸にストーリーが進んでいく。そしてこの事実を抹消する為に奔走するブレードランナーが“K”だ。

Kが辿り着いた「人間らしさ」とは

Kは、LAPDがブレードランナーとして雇うレプリカント(製造番号KD6-37)だ。Kは、一連のレイチェルに関する事実を追及していく上で、自身の記憶と合致する数字「61021」と出会うことになる。この数字はKの記憶の中にある、宝物の「木馬のおもちゃ」の裏に印字されている数字そのものだった。彼はそこで、2021年の6月10日生まれの子供をデータから探していきます。

このことがきっかけで「自分がデッカードとレイチェルの子供なのでは?」という疑念を抱くことになる。そこでKは、レプリカントの記憶デザイナーのアナ・ステリン博士の元へ、自分の「木馬のおもちゃ」の記憶を見てもらうことに。アナ・ステリンは「木馬のおもちゃ」の記憶を見て、それが本物であり自分にとっても特別な記憶だからと語る。その様子から、Kは自分が息子なのだと確信する。

その後Kは、デッカードから「娘にデータの改ざんや細工を教えた。」と聞く。更に、アナ・ステリン(レプリカントの子供)の存在を隠し通していた、レプリカント解放運動家リーダーは、Kに「娘が本物の子供だ」と告げる。残酷な真実を突きつけられたKは、言葉を失い狼狽する。

Kは、自分の“レプリカントである使命(レイチェルの娘、アナ・ステリンの身代わり)”を自覚したうえで、ウォレスに捕らわれたデッカードを救出し、アナ・ステリンに会わせます。そして研究所の入り口の階段に深手を負った身体を横たえ、安らかな表情で降り注ぐ雪を全身で感じていた。

レプリカントの「使命」としては異質なKですが、ブレードランナーとして命じられた任務(レイチェルの子供に関する事実の抹消)を遂行していく上で、K自身の気持ちに変化が生じていきます。最終的には、Kはブレードランナーとしての任務を放棄し、アナ・ステリンに父親のデッカードを会わせる。自分が選択した行為に悔いがなかったことは、雪を見上げる安らかな顔が物語っているように思える。

これは、前作の『ブレードランナー』のラスト、強すぎるレプリカント“ロイ・バッティ”の最後の笑顔にオーバーラップする。人間であるデッカードの命を救う決断をし、次のような言葉を残して寿命を迎えます。「お前ら人間には信じられないものを俺は見てきた。オリオン座の近くで燃えた宇宙船や、タンホイザー・ゲートのオーロラ。そういう思い出もやがて消える。時がくれば涙のように雨のように。その時がきた」

ロイたちネクサス6のレプリカントは、死を恐れ生を求めた。一方Kは、「レイチェルの子供ではないか?」という疑惑を抱いたことによって、自分の生命の根源(産まれた存在)をうたかただが得た。不安定ではあるが精神に安定が訪れたのではないか?そしてその後、Kは人としての選択をしていく。

癒される恋愛遊戯“ジョイ”の存在

Kが帰宅すると、一人の美しくて可愛いらしい女性が彼を迎える。彼女の名前は“ジョイ”。とはいっても彼女は、ホログラフAIだ。Kは、人間の同僚からは「スキンジョブ(人間もどき)」とののしられ、同類(レプリカント)の解任後にはPTSDを発症していないか心理検査される。そんなすさんだ状況の中で、寡黙にならざるを得ない彼が、唯一雄弁になり心癒される時がジョイといるひと時だ。

彼女の存在はKの救いであり、レプリカントとAIという間柄だけど、そこには確実に恋愛感情がある様に思える。そして彼を慕うジョイの眼差しはとにかく優しい。このふたりの、どことなく官能的でもある恋愛遊戯は微笑ましくて、この重い雰囲気の作品の中で、観ている我々にとっても一服の清涼剤となっている様に思える。この作品の良心だ。

デッカードのレイチェルへの愛

ラスベガスからウォレス・コーポレーションへ連行されたデッカード。身柄を拘束されたデッカードは、ウォレスと対峙していた。ウォレスは、デッカードとレイチェルはもともと生殖実験の為にプログラミングされていたと話し(真意の程は?ウォレスがでっち上げたデマかもしれません)、ふたりの間に産まれた子供の秘密を暴露しろと迫る。頑として口を割ろうとしないデッカードに対し、しびれをきらしたウォレスは、新しく作り上げたレイチェルを彼の前に差し出し、彼女との生活を約束し取引を迫る。久しぶりに愛するレイチェルと対面したデッカードは、一瞬動揺するも・・・、目の色が違うと言って拒絶します。

このデッカードとウォレスのやり取りが・・・、特にレイチェルを前にして動揺するデッカードの表情や、レイチェルの瞳の色に言及して、ウォレスの取引を拒絶するまでのシーンが、何とも泣けるのだ。そこにはレイチェルに対してのデッカードの深い愛が感じとれる。

誘惑作戦が失敗したウォレスは、デッカードの目の前でレイチェルを銃殺してしまう。

いくつか残った疑問

163分と長い上映時間にも関わらず、その時間の長さは感じないままにエンディングを迎えられた本作品。ホロリと泣ける感動シーンも数か所あり、満足のいく作品だった。(本人談)

そんな『ブレードランナー2049』だけど、観終わってみて「あれって?」「あれはこの後どうなるんだろう?」などなど、いくつかの疑問があった。

・・・まとめてみました。

Kは死んだのか

前作で、逃避行したデッカードとレイチェルのその後(レイチェルは寿命を迎えて死んだのか?ふたりに追手は来るのか?などなど・・・)を言及していないように、本作品でも、Kがラブから受けた致命傷から、生き延びるのかどうか?生死には言及されていない。

映画を観ていたその場では、Kは死んだと思ってエンディングを迎えたけど、その後よくよく振り返ってみると、「決して死んだとは限らない終わり方だな。」と思った。さてどうなのか?

レプリカント解放運動はこのあと・・・

レイチェルの出産や、その後の彼女の娘アナ・ステリンの保護。また、ラブとの格闘で深手を負ったKを助け、レイチェルの娘の真実を伝えたりと、『ブレードランナー2049』ではかなりキーになる存在だ。当然、人間社会に対して反旗を翻している地下組織なわけだから、表世界に出たときはきっと・・・。

まだ生きているネアンダル・ウォレスはこの後・・・

デッカードとレイチェルの間に生まれた娘。今回は、Kがデッカードを娘のアナ・ステリンに会わせるということで落ち着いてはいるけど、ウォレスは諦めているわけでは決してない。今後も様々な手段を使って、アナ・ステリンを捕えに来ると推測できる。

またウォレス・コーポレーションは、タイレル・コーポレーションから技術を含む資産を受け継いだとはいえ、ウォレスのレプリカントに対する考え方は、タイレル博士のそれとは異なる様に思える。危険なのだ。

 

何だか続編が一作分作れちゃいそうですね。