お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎(41)が23日、自身のツイッターを更新し、2017年10月末に初めて刊行した大ヒットした漫画「大家さんと僕」(新潮社)の「大家さん」が亡くなったことを明かし、恩人の死を悼んだ。

引用:カラテカ・矢部、恩人の「大家さん」死去を報告「ご冥福をお祈りするばかりです」(Yahoo!ニュース)

静か~に話題をよんでいた、カラテカの矢部太郎著の漫画「大家さんと僕」。この作品のファンだった僕は、その作品ヒロインの大家さん他界のニュースはちょっと驚いた。

昨年の夏、ラジオ(文化放送・くにまるジャパン極)でピックアップされていたのを聴いたのが、僕が「大家さんと僕」を知ったきっかけだった。その後その年の冬に書店で「大家さんと僕」の単行本を見つけたので即購入。

ささやかな日常の幸せを描いた「ちいさな愛の物語」

“手塚治虫文化賞”の受賞で人気が加速

2018年6月、「大家さんと僕」の“手塚治虫文化賞 短編賞”受賞が発表されると、書店の打ち出しコーナーがざわざわし始める。漫画の単行本が小説と肩を並べて平置きされ始めた。静かな話題を呼んでいた「大家さんと僕」は、一転してざわめきはじめ、たった一冊の漫画エッセイ単行本が現在30万部を超えて売れている(7月末の時点で23刷)。

作者・矢部太郎の芸人としての才能

作者の矢部太郎は、漫才コンビ“カラテカ”のボケ担当(相方は入江)だが、口数が少なくしかも口下手で芸人としてはちょっと異色。矢部自身「自分はあまり芸人には向いていない」と言ってたりして、バラエティなどに出演しても殆どしゃべらなかったりする(芸人はしゃべってナンボ)。そんな矢部が書く「大家さんと僕」は、ほっこりと心温まるセンスのいい笑い、“大笑い”はないが「フフッ」という様な“小笑い”せずにいられないオチが散りばめられている。お笑い芸人だからか、それとも新たな才能なのか、矢部のほっこりとしたギャグにはセンスを感じる。

ほっこり愛のエピソード―

「ごきげんよう」と挨拶する大家さん。ある程度距離をおいて矢部に接するのかと思いきや、結構踏み込んで接してくる。最初はそんな大家さんに戸惑う矢部だけど、気が付けば大家さんのペースに巻き込まれていたりする。一方、矢部も二階に入居する際に不動産屋さんから「大家さんはかなり高齢で・・・、何かあったらお願いします」と訳の分からない依頼を受けていて、そんなこんなで、お互いがお互いを気に掛ける面白い関係が・・・。そんな二人の“ほっこりエピソード”がいろいろ・・・。

矢部が話す“笑いのネタ”に反応しないのはしょっちゅう。逆に大家さんが放り込んでくる冗談は、洒落にならない時が多々あったりして・・・。

<パジャマと東京五輪>“大家さんの洒落にならない冗談”

大家さんは時々ご自身の寿命を冗談のネタとして使います。そのたびに慌てふためく矢部。

大家さんの誕生日に、矢部が送ったのはパジャマ。大家さんは「次のお出かけに着ていくわ」。次のお出かけを矢部が尋ねると、大家さんは・・・「三途の川よー。」

東京五輪が決定したニュースを二人仲良く見ていた時のこと。矢部が「大家さんは二度目のオリンピック楽しみですね」と大家さんに。大家さんの返す言葉が「それまで生きてないから興味ないわ」だって・・・。

これらの自虐ネタ、大家さんが実際に言ったかどうかは作者の矢部にしかわからないが、今となっては洒落にならないオチになってしまった。悲しい限りです。

その他にも僕が大好きな二人のエピソードは色々。

ご飯をめぐっての大家さんと矢部の大討論。「多く炊いた方が美味しい」という大家さんに対して、「量なんか味に関係ない」という矢部。軍配は大家さんの勝ち。

庭の草むしりに矢部の後輩チャラ芸人“のんちゃん”を呼ぶが、大家さんといやに波長が合うものだから、「僕の大家さんなのに」と、矢部がちょこっとやきもちを焼いたり・・・。

この単行本のあとがきで描かれたエピソードも好きです。この漫画「大家さんと僕」が初めて掲載された“小説新潮”を大家さんに見せると、大家さんは「私小さくて垂れ目がチャームポイントなの。それを描いて欲しいわ」と矢部に注文をつける(ダメだし?)。そして動物のイラストの切り抜きを見せ、「この新聞のイラストみたいに・・・可愛いですよね」って。

そして最終話、「大家さんと僕」は、今となっては涙なくては読めないエピソードになっちゃいました。

「大家さんと僕」は、芸人としては不適格かもしれない(自称)カラテカの矢部が、大家さんとの心の交流を通じて描いた、何でもない日常の中の小さな「愛」のエピソードだ。何だろうか、自分が忘れてしまった何かを思い起こさせてくれるような・・・。

残念ながら大家さんはこの世から旅立ってしまったけど、「大家さんと僕」の物語は永遠に思える。