この秋、注目の映画「ダンケルク」

『ダークナイト』・『インセプション』を手掛けたクリストファー・ノーラン監督が、歴史上の実話、史上最大の撤退作戦「ダンケルクの奇跡」を描いた戦争映画ですが、観てきたので早速レビューしますね。

「ダンケルクの戦い」とは

日本が真珠湾攻撃でアメリカに奇襲的宣戦布告をする2年前。

1939年、ドイツ軍のポーランド侵攻を機に、第二次世界大戦(イギリス・フランスがドイツに宣戦布告)が勃発。ドイツはその後電撃的にベネルクス三国、そしてフランス北部も席巻。

ドイツ軍は大砲や戦車など火力と機動力を持つ機甲部隊や戦闘機や爆撃機を駆使し、陸と空からものすごいスピードで電撃戦を展開、瞬く間に英仏連合軍40万人の兵士をフランス北部の港町ダンケルクまで追い詰める。英仏の想定を上回るドイツの軍事力に、イギリスのチャーチル首相は「撤退」を決断。「戦う」ことを強いるのではなく全員を救出する命令を下した。

その司令を受け、兵士たちを救うため、およそ900隻もの官民合わせてありとあらゆる船が緊急徴用され(決して強制ではなく)、今でいうボランティア精神で自主的に救出に向かった船もありました。この一連の官民一体の史上最大の撤退戦が「ダンケルクの戦い」と呼ばれています。

この救出作戦(ダイナモ作戦)により、1940年5月26日から6月4日の間におよそ33万人(英:約19万人、仏:約14万人)が救出された。

いきなり僕らはダンケルクに放り込まれる

人気の居ない港町(ダンケルク)の風景とそこを歩く数人の兵士。空から降ってくる降伏を勧告するビラ。「ダッ、ダッ、ダッ・・・」響く自動小銃の銃声。銃声に反応して逃げる兵士(主人公の一人トミー)。静から動へと一気に動きが加速する。

映画「ダンケルク」の冒頭シーンだ。

この時点で、スクリーンを見ている僕らはダンケルクの港町に放り込まれている。シーンの迫力はもとより、無視できないのが音響の迫力だ。その生々しさが戦場の臨場感をリアルなものにしている。この後も見えないドイツ軍の攻撃を逃れダンケルクの海岸にたどり着く。そこには攻撃を逃れたどり着いたおびただしい数のイギリス兵達が整列している。この一連の展開を僕らは主人公の視点で体験する。

「陸・海・空」それぞれに経過する時間

映画「ダンケルク」では、脱出する兵士、救出に向かう民間船、救出を空から援護する戦闘機と「陸・海・空」の3つの視点から描かれている。106分の上映時間の中で、あたかも同時進行のように交互に描かれた3つの場面は、時間軸の目盛りが実はまったく違うのだ。

ダンケルクに追い詰められた40万の兵士を救出するダイナモ作戦は10日間を費やしている。映画「ダンケルク」では、「陸」での時間経過はトミーが海岸にたどり着いてからの1週間、「海」での経過時間は救出に向かった民間船が救出するまでの24時間、「空」での経過時間はドイツの戦闘機や爆撃機からの攻撃を阻止する英軍パイロットのコックピット内の1時間。この異なった時間経過を行き来しながら、映画の中での時間経過に昇華していく。終盤になるにつれて3つの異なった時間経過は同期しはじめ、ラストは同じ時間軸で時間が交差する。実に絶妙で観ている側はシームレスに受け入れてしまう。

脱CGと迫力の音響によるリアリティ

前述したとおり、オープニングから圧倒的リアリティで観ている者を引き込んでいく本作品。ノーラン監督はどのようにしてリアリティを追及しているのか?

リアリティを追及する為に、本作品は「脱CG」を可能な限り貫いて製作されています。そして臨場感を引き出す為の「音」と、最高解像度のフォーマット「IMAXフィルム」で撮影された透明感と迫力ある映像が、最大のリアリティを表現しています。

救出を待つ40万の兵士がいるダンケルクの海岸や港を襲うドイツ軍の爆撃や機銃掃射。スピットファイアのコックピットごしの空中戦。狭い船内を徐々にハチの巣にする銃撃シーンなどなど。その現実の映像と音のド迫力に圧倒されてしまいます。

ストーリーとか抜きにして、シーンとしてお気に入りなのが・・・。

援護のために英空軍のスピットファイアがダンケルクの海岸上空に辿り着き、独軍のメッサーシュミットと対峙するシーン。海岸と戦闘機を俯瞰するアングルで撮影されているのだけど・・・、ニュアンスは違うけど、どこか「地獄の黙示録」の戦闘ヘリの大群が海岸線に迫るシーンを思い出させてくれる。それと救援のミッションを終えたスピットファイアが、燃料切れでダンケルクの海岸線に不時着するシーンでは、そのスピットファイアがエンジン停止状態で滑空する様が、戦争映画にはない荘厳さと美しさを感じさせてくれます。押しつけがましいかも・・・ですが、必見です。

最大の撤退戦「ダンケルクの戦い」がもたらしたもの

「ダンケルクの戦い」の後、そしてドイツ軍は易々とパリを陥落させフランスを占領します。結果だけを見たらドイツ軍の圧勝ですが、このダンケルクが、東側のスターリングラードの攻防戦と肩を並べる欧州の歴史の大きなターニングポイントと言われるのは、イギリス本国にまで占領が及ばず、その後の「ノルマンディ上陸作戦」へと繋がったと言われています。40万の兵士を救出した「勇気ある撤退」による兵力温存がもたらした結果と言っていいのでは。

「ダンケルクの戦い」は、官民総出の決死の救出作戦。しかしそれは勝利を得る作戦ではなかったわけで、時の首相チャーチルは、その成果を「奇跡」称しました。この「ダンケルクの戦い」は、イギリス国民が逆境を克服する為に一致団結した結果であり、このことは「ダンケルク・スピリット」と呼ばれ今もイギリス人の勇気のよりどころになっています。

あ、この映画「ダンケルク」ですが、鑑賞する際はぜひIMAXシアターでの鑑賞をお勧めします。通常のスクリーンの場合上下20%がカットされてしまうそうです。