その後の日本の命運を分けた、まさしく歴史の節目となった戦。東軍vs西軍が正義と野心をかけて激突。日本を二分した、天下分け目の合戦が関ケ原の戦い。
司馬遼太郎のベストセラー小説「関ケ原」を完全映画化。
予定していたより一週間遅れですが、観てきたのでレビューをアウトプットしますね。
「関ヶ原の戦い」って?簡単に・・・。
天下統一を成した豊臣秀吉が命じた愚策「朝鮮出兵」をきっかけに、現地に出兵していた武将達と、秀吉の元でその意に従う石田三成をはじめとする中央の家臣達の間に生じた亀裂が事の発端となり、豊臣の家中に対立が生じる。
秀吉の謀略による秀次の死(お世継ぎ問題が原因)、そして秀吉が死を迎えた後より、家中の対立はさらに表面化し深刻なものとなっていった。そこに付け入ってきたのが、天下統一の野心を抱く徳川家康。それでも五大老の一人、前田利家がいる間は家康は表面上は大人しくしていたが、利家が亡くなると家中対立に火に油を注ぐが如く、謀略を講じ始める。やがて名だたる大名が、石田三成率いる「西軍」と徳川家康率いる「東軍」に分かれ激突することになる。
慶長5年9月15日(西暦1600年10月21日)、この天下分け目の戦いが「関ケ原の戦い」である。
今も昔も戦は諜報戦
戦において、諜報活動がどれだけ重要かは知るところ。昨年大ヒットしたNHK大河ドラマ「真田丸」でも、幸村に仕える忍び「佐助(藤井隆)」の活躍は記憶に新しい。
映画「関ケ原」でも、石田三成には「初芽(有村架純)」、徳川家康には「蛇白(伊藤歩)」、そして双方を裏切りながら密偵として渡り歩く「赤耳(中嶋しゅう)」と三人の伊賀の忍びが描かれている。
今回、「関ケ原」のキャスティングで話題になっているのが時代劇初挑戦の有村架純。彼女が演じるのは三成に仕える「初芽」という伊賀の忍び。初芽はある事件で三成に命を救われ、犬として三成に仕える。そしてお互いの信頼の中で惹かれていく。三成と初芽の心情の移りの過程において、忍びとしての顔といい三成に対しての顔といい、有村架純の演技が実にいい感じなのです。「なるほどなぁ」って思っちゃいましたね。
そして初芽の対極に位置するのが、家康に仕える伊賀の忍び「蛇白」。任務遂行をクレバーにこなすのは初芽と同様だが、彼女は家康に対しても非常にクレバーなのです。そしてこれが本当の忍びの活動かな?って思うのが、三成と家康の双方を渡り歩く「赤耳」存在。先に公開された「忍びの国」で描かれた伊賀の忍び共に非常に近い存在に感じました。
とにかく「関ケ原」では、忍びの存在が興味深く描かれてますよ。
「関ケ原」で描かれている三成の逸話
西軍大将の石田三成に関しては、あまりいい話は聞かないかもしれない。それは徳川家康やのちの江戸幕府にとって敵対した仇役だったため、三成は「出世のため他人を陥れる器の小さい野心家」として描かれた奸臣三成としての逸話(悪評)が多い。史実に基づいた逸話が出始めたのは幕末を経て近代に入ってからで、「真実の三成像」を探る研究がされるようになったそうです。当然この「関ケ原」では、近代以降の三成像がメインに描かれているんじゃないかなぁ。
映画「関ケ原」でもある逸話は忠実に、またある逸話にはアレンジを加えた形で表現されています。秀吉が三成を家臣にするきっかけとなった「三杯の茶(三献茶)」は、結構知られてる逸話だと思いますが、劇中前半にしっかりと描かれていたのが印象深かったですね。また関ヶ原の戦いで敗れて捕縛された三成に家康が面会した際、「戦に敗れることは古今あることで少しも恥ではない」と家康が三成に、それに対して三成は家康に「天運だ、早々に首を刎ねよ」と、『常山紀談』にはこのような逸話が記されていますが、劇中では終始無言の時が流れるという演出にアレンジされています。
あ、また通説とは一味違う小早川秀秋の描き方も一興ですよ。
「大一大万大」三成の理想と義
西軍大将「石田三成」の軍勢の旗や鎧の銅に描かれた「大一大万大」の記号のような文字。家紋では?とも思われているようだけど、どうやら違うようです。石田家では「九曜紋」(中心の丸を囲む八つの丸:月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜、日曜、計都、羅睺という9つの星を指す)という家紋を使用していたという史実も残っています。とすれば「大一大万大」は家紋ではなく旗印ということになりますね。(主観ですけどカッコいい。漢字大好きな外国人にもきっと受けがいいんじゃないかな?)
劇中で三成はこの文字を書にしたため、初芽にその意味を語るくだりがあります。「大一大万大」というのは「万民が一人のため、一人が万民のために尽くせば太平の世が訪れる」という意味のようです。ひとつの三成の理念というか理想を表した様な感じなのでは?でもこれと似たような理想を、敵方の徳川家康も持っていると思うんだけど・・・。
秀吉に深い恩を感じる三成は、現行の体制を護持するために義(自身が抱く正義)を貫き、一方家康は天下統一の野心の為に。「関ヶ原の戦い」は、理念は近いものがあったにもかかわらず、義と野心が衝突した戦だったのだろう。
合戦シーンのスケールに感動
NHK大河ドラマ「真田丸」のクライマックスは「大阪夏の陣」ですが、合戦のスケールに関しては、「テレビではこれが限界かな?」という少し残念なものでしたが、「関ケ原」はさすが映画って感じです。「よくここまで大勢集めたなぁ・・・。」って思うくらい大勢の武将が入り乱れて闘う合戦シーンの迫力とスケール感は、TVのそれとは比べ物にならない程凄かったです。上映時間2時間半という限られた中で、焦りや緊迫感、大志や野望や義、そして愛と人間模様を描き、且つスケールのデカい合戦シーンまで描いた構成には脱帽です。
ちょっと洒落て言うならば、時代物映画の天下分け目の作品になるのでは?オススメです。